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【せりょゆづSS】 言葉がなくても

風邪ひいてしまいましたーーー!
ということで、せりょゆづで1本お話を思いついたのでよろしければお付き合いください。



*―゚+.。o○*☆*○o。.+゚―*☆*―゚+.。o○*☆*○o。.+゚―*

いつもなら、起床するとまず弓弦さんにおはようのメールを送信する。
しばらく経っても沈黙を守る俺の携帯電話に苦笑しつつ、二度目のメールを送信。
そのあとに『いまおきた』と弓弦さんからの返信。
いつもなら、駅で彼を待つ間、同級生や後輩の女の子たちに声をかけられて談笑しているかもしれない。
いつもだったら、後ろから肩をたたかれて振り向くと、いつも通り寝ぼけ眼の弓弦さんが「おあよー」と締まりのない声を俺にかける。

……その『いつも』が今日は逆転していた。

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待ち合わせの場所に向かうと、彼は数人の女の子に取り囲まれていた。

「しーの先輩! こんなところでなにしてるんですかぁ」
「誰か、待ってるんですかー?」
「あと1本遅れたら遅刻しちゃいますよ、あたしたちと行きましょうよー」
「バカ、篠先輩は芹生くんを待ってんのよ」
「えっ! ウソー、じゃあ待ってたら冬至先輩も一緒!?」
「ほんとですか、篠先輩」
「うん、ホント。君たちと行きたいのはやまやまだけど、俺が待っててあげないとアイツ泣いちゃうからさー」
「やだー! あははは」
「じゃあ、私たちはお先にー」
「先輩、ばいばーい!」

女子生徒の姿が改札口へと消えてゆくのを待ち、俺は弓弦さんの肩に手を置いた。

「おわっ! びっくりしたー! おっせーよお前! なに、風邪ひいたんだって? メールこねぇし電話にも出ねぇし、どーしたかと……」
「誰が……泣くって? 弓弦さん」
「…………」
「ゆづるさん?」
「ぶっ…………くくく、芹生、その声ひでえな! あっはは! だから電話に出なかったのか」

予想はしていたけれど、やっぱり大笑いされた。
昨日から、なんとなく鼻がむずむずして、喉の奥に違和感があるとは思っていたんだ。風邪の症状というのは、自覚するとあっという間に進行してしまうものだ。

「……弓弦さん、笑いすぎ。そんなに変?」
「うん、すっげーやばい!!」

……さわやかな笑顔できっぱりと言い切られた。

「ひどいな……俺だってひきたくてひいてるわけじゃ……」
「ぶふっ。あ、待ておまえ、あんま喋るな。つーか今日一日喋らないほうがいいんじゃねえ? 女子が聞いたらショック受けるぞ」

弓弦さんは肩を震わせている。
そこまでおかしいのだろうか……。だんだん気が沈んできた。弓弦さんの笑いのツボにひっかからないよう、俺はなるべく声の音量を落として話す。

「そういうわけにはいかないよ」
「まーな、でも無理しても悪化する一方だしさ。授業で当てられる以外は筆談でもしとけば?」
「無理に決まってるでしょ……」
「あっ、いいこと考えた。目で語る! 男なら瞳で語れよ、芹生!」

まったく、人事だと思って……。
弓弦さんは面白がって、俺にアレコレ思いつきで無茶な提案をしてくる。

「瞳で語れって言うけど、じゃあ弓弦さんがお手本見せてよ」

すこしだけ拗ねた口ぶり言う。
俺のかすれた小声を聞き取るために、ぴったり横にくっついて歩いていた弓弦さんが歩みを止めた。
「へ? 俺がー?」
「うん」

……弓弦さん、困るかな。困るだろうな。これで少しは、からかったことを後悔するだろう。
彼はうーんと宙を見上げて考え込んだあと、流れる歩行者の妨げにならないよう通路の端に寄れと俺を誘導した。そのまま手を引かれ、奥まったコインロッカーの影に身をかくすようにふたりで滑り込むと、弓弦さんが俺の顔を下から覗きこんできた。大きな茶色の瞳に、間が抜けた顔の俺がうつりこんでいるように見えた。お互い、しばらく無言の時間が続く。

「? え、と……弓弦さん?」
「…………」
「弓弦さん、ちょ……」
「お手本」
「え?」
「……だから、お手本、みせてるんだけど」

弓弦さんは、俺との距離をわずかに縮めた。背中に、硬くひんやりとした感触がぶつかる。

「俺が何を考えてるのか、当ててみな。芹生」

周囲の雑音を掻き消すような騒がしさで、俺の心臓は早鐘のように鳴った。彼がまばたきをするたびに、長いまつげが揺れる。
弓弦さん、それは……、ずるい。

「…………」
「ん?」
「…………、ス」
「きこえませーん」
「キス…………、したい?」
「なんで疑問系なの」
「いや……、だって」
「やーらしいなぁ、芹生。俺が朝から、んなこと考えてるとでも思ったのか」
「……え。え、ええ?」
「よし、じゃあ今度は俺がお前の思考を読み取ってやる」
「…………」
「…………」
「……わ、わかった? 弓弦さん」
「うん。おまえ超わかりやすい」
「……風邪、うつるよ」
「へーきへーき。芹生からウイルスをうつされるほど、俺は弱くない」
なんだか酷い言われようだなあ、と苦笑しつつ、俺は弓弦さんの頬にそっと触れた。
「当ててみて、弓弦さん」

「キスしたい!」


その後、俺たちが遅刻をしたのは言うまでもない。
さらに三日後、弓弦さんの声を聞いて吹き出した俺に、彼の鉄拳が飛んできたことは理不尽と言えよう。


■END■


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